会社で従業員の出張がある場合、旅費や宿泊費、日当などを支給するのが一般的です。
これらの費用は事業活動に必要な経費として仕入税額控除の対象になる場合がありますが、インボイス制度だと何が変わるの?というような疑問もあると思います。
インボイス制度や所得税の非課税範囲といった専門的な話題が絡むと、混乱してしまいがちですよね。
今回は、出張旅費等に関する仕入税額控除の特例を初心者向けにわかりやすく解説します。
社内規程や実費精算の有無に関わらず適用できる特例の基本ルールや具体的な例を挙げながら、手続きのポイントを丁寧に説明します。
さらに、非課税範囲を超えた場合の注意点や帳簿の記載例もわかりやすく紹介します。
出張旅費等の仕入税額控除の特例とは?
会社が従業員に支給する出張旅費、宿泊費、日当など(以下「出張旅費等」)について、一定の条件を満たせば帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例が設けられています。
この特例の対象となるのは、その出張において「通常必要であると認められる部分の金額」です。
「通常必要であると認められる部分」とは、所得税基本通達9-3に基づき、所得税が非課税とされる範囲内の金額を指します。
これを超える部分は「給与」とみなされ、仕入税額控除の対象外となるため注意が必要です。
また、特例は、社内規程の有無や精算方法(概算払いか実費精算か)にかかわらず適用されます。
所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
(1)その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2)その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。引用元: 国税庁
社内規程や実費精算は関係ない?特例のポイントを解説
この特例では、以下のような点がポイントになります。
1. 社内規程の有無は問われない
社内に「出張旅費等に関する明確な規程」がない場合でも、支給された金額が「通常必要であると認められる範囲」であれば特例が適用されます。
規程があれば、それに従って判断できますが、ない場合でも交通費や宿泊費などが適切であれば問題ありません。
2. 概算払いか実費精算かは関係ない
出張旅費が概算払いで支給されても、実費精算で支給されても、金額が適切であれば特例が適用されます。
3. 所得税非課税の範囲が基準
「通常必要であると認められる部分」の金額は、所得税基本通達9-3の非課税基準に基づいて判断されます。
この範囲を超える場合は、超過部分が給与として扱われ、仕入税額控除の対象外になります。
このように、規程や精算方法に関わらず、金額の妥当性が大きなポイントになるのが特徴です。
具体的なケースで見る特例の適用例
特例の適用範囲を具体例で見てみましょう。
【ケース1】社内規程がある場合
社内規程で「1回の旅行あたり3,000円」と定められており、所得税非課税の範囲が10,000円の場合に8,000円を支給したケースでは、8,000円が特例の対象になります。
【ケース2】社内規程がない場合
社員が出張にかかった交通費として10,000円を実費請求した場合、その金額が「通常必要であると認められる範囲内」であれば、10,000円全額が特例対象となります。
これらのケースを見ると、出張旅費の精算方法や社内規程の有無にかかわらず、適切な金額が支給されていれば特例が適用されることが分かります。
「通常必要であると認められる範囲」を超えた場合の注意点
出張旅費等の支給額が所得税非課税の範囲を超える場合、その超過分は「給与」として扱われます。
給与として扱われる部分については、仕入税額控除の対象外となります。
例えば、所得税非課税範囲が10,000円であるのに対し、15,000円を支給した場合、超過分の5,000円が給与扱いとなり控除対象外となります。
また、実費精算で用務先に直接支払った交通費や宿泊費については、非課税範囲に関係なくインボイスを保存することで仕入税額控除が認められます。
ただし、公共交通機関の利用など、他の特例が適用される場合は帳簿のみの保存で対応できるケースもあります。
まとめ
出張旅費等に関する仕入税額控除の特例は、事業者にとって手間を軽減する便利な制度です。
特例のポイントは、支給額が「通常必要であると認められる範囲」に収まっているかどうかです。
また、所得税非課税の基準が判断基準となるため、支給額を適切に設定し、帳簿に記録することが重要です。
社内規程の有無や精算方法にかかわらず、特例の条件を正しく理解し、実務で活用しましょう。
出張旅費等の取り扱いを適切に行うことで、仕入税額控除をスムーズに進められるようになります。