資産除去債務は、主に借りている土地や建物に対して原状復帰するためにかかる費用を、毎年計上していくものです。
これは、契約に原状復帰義務がある場合に計上しなければならないものなのですが、もし仮に計上を忘れてしまった、といった場合はどうするのでしょうか。
今回は、資産除去債務の計上がもれてしまった場合の考え方や処理方法をご説明いたします。
資産除去債務の基本的な仕訳や計算方法については、こちらの記事をご覧ください。
割引率の考え方
資産除去債務のを計算する場合は、割引率というものが必要になります。
簡単に解説しますと、資産除去債務は将来、土地や建物の原状復帰に対してかかる費用を計上するものです。
その金額は何年も先の金額であることが普通なので、現在の価値にしていくらか?という計算をしなくてはなりません。
これは、毎年、預金に利息がかかっていってだんだん増えていく、ということを考えるとわかりやすいです。
利率が1%だとすると、今の100円は来年は101円、その次の年は102円…と増えていきますよね?
(理解しやすくするために、ものすごくざっくりと計算しています)
割引計算はこの逆をやるんです。
例えば、10年後に原状復帰で110円かかるという見積もりが出たとします。
割引率1%とすると、10年後の110円は現時点ではいくらになるか?を考えます。
10年後110円、9年後109円、8年後108円…現在100円となります。
つまり、この例の場合は資産除去債務は100円を計上します。
計上漏れの場合の割引率はいつ時点のものを使う?
では計上漏れの場合、いつの時点の割引率を使えばいいか、という疑問がわいてきます。
割引率は、一般的には国債の利率を使うのですが、この利率は毎日変化しています。
詳しくは財務省の金利推移表をご参照ください。
管理人の経験では、計上漏れをした場合、現状復帰対象資産を取得した時点の利率を使っていました。
例えば、借りたオフィスビルを工事して、会議室などを作った場合。
基本的に賃貸オフィスは、退去時に原状復帰をしなければなりません。
ですので、工事をした場合はこれらを戻さなければならないので、資産除去債務を計上する必要があります。
では、その計上を忘れていた場合を考えます。
例えば、2017年4月1日からこの会議室を使い始めたとします。
そして、2019年3月31日に計上漏れが発覚したとしましょう。
この場合は、2019年3月31日の利率ではなく、2017年4月1日の利率を使って資産除去債務の金額を計算します。
利息費用の計算方法と処理方法
利息費用の計算自体は、通常の資産除去債務と変わりがありません。
まずは見積もりを取って、割引率を使って資産除去債務の金額を計算していきます。
計上漏れがあった場合は、過年度分の計算と今年度分の処理方法が変わります。
例えば、10年後に110万円の見積もりで、割引率1%の場合を考えてみましょう。
利息費用はわかりやすくするために2017年度は1万円、2018年度も1万円とします。
まずは過年度分について。
これは、利息費用という費用を計上するのではなく、過年度遡及修正の考え方にもとづいて、繰越利益剰余金で処理をします。
具体的な仕訳は
繰越利益剰余金 1万円/資産除去債務 1万円
となります。
今年度分は通常通り
利息費用 1万円/資産除去債務 1万円
減価償却費の計算方法と処理方法
減価償却費の計算も通常の資産除去債務と変わりません。
計上漏れがあった場合は、利息費用と同じく過年度分と今年度分で処理方法が変わります。
取得時期が2017年4月1日なので、固定資産の取得日も償却開始日もこの日です。
減価償却費は定額法で毎年10万円としましょう。
過年度分の仕訳は
繰越利益剰余金 10万円/減価償却累計額 10万円
当年度分の仕訳は
減価償却費 10万円/減価償却累計 10万円
となります。
まとめ
資産除去債務は特殊な処理で、あまり頻繁に出てくることもないかもしれません。
そのため、計上漏れに注意が必要です。
万が一計上漏れをしてしまった場合、今回の説明をお役立ていただければ管理人もとても嬉しいです。
なお、過年度遡及関係は非常にわかりづらいところであるため、事前に会計士さんとよく打ち合わせをしておいてくださいね。