インボイス制度が始まり、消費税の計算や請求書発行のルールが少し複雑になったと感じている方も多いですよね。
その中で、「振込手数料」に関する処理は意外と盲点になりがちです。
今回は国税庁が示す考え方などを参考に、振込手数料にまつわるインボイス制度での対応を、初心者でも理解しやすいようにまとめました。
買手負担のケース、売手負担のケース、それぞれでインボイスの処理がどう変わるのかを、解説していきます。
インボイス制度が始まって振込手数料の処理は変わるのか
インボイス制度がスタートし、「消費税の計算がややこしくなったかも…」と感じている方も多いですよね。
特に、商品代金を振り込むときに発生する「振込手数料」について、「インボイスは必要?どうすればいい?」と迷うこともあるかもしれません。
インボイス制度では、課税仕入れを行った場合に適格請求書が必要となりますが、振込手数料については、誰が負担するかによって処理の仕方が変わってきます。
もし「買手が振込手数料を負担する」のが通常で、売手(お金をもらう側)が関与しなければ、売手が発行するインボイスにはこの手数料は基本的に出てきません。
一方、売手が手数料を負担する場合は、実質的に値引きをしたのと同じような状況になり、インボイスへの記載や消費税計算に影響が出てくることがあります。
今回は、国税庁が公表する情報や基本的な消費税の考え方を参考に、初心者でもわかりやすく「振込手数料のインボイス対応」について整理しますね。
振込手数料は課税取引。買手(支払い側)が負担するのが基本
まず大前提として、銀行への振込手数料は、消費税が課される「課税取引」です。
つまり、振込手数料を支払うと、その中に消費税相当額が含まれています。
通常、この振込手数料は、代金を振り込む「買手」が負担しますよね。
この場合、振込手数料は買手が金融機関から受ける「振込サービス」に対する対価であり、買手側で課税仕入れとして処理します。
課税仕入れなので、仕入税額控除を受けるには適格請求書が必要です。
振込手数料を誰が負担するかで扱いが変わる
振込手数料は通常買手負担ですが、「今回はこちら(売手)が手数料も負担しますよ」とか、支払金額から勝手に手数料相当額を引いてきた(こちらのケースが圧倒的に多い)となると話が変わりますよね。
売手が手数料負担をすると、実質的に売手が商品代金の一部をまけてあげている、つまり値引きしている状況になります。
国税庁の説明によると、値引きなどで取引金額が減額される場合、売り手側が適格請求書を発行する必要があり、それがきちんとわかるように記載が必要です。
手数料負担が売手側に移ると、「実質的な取引額が減る」わけですから、その分インボイス上でも「値引き○○円」といった形で記載して、最終的な課税標準額と消費税額を調整します。
もしこれを曖昧にしてしまうと、後で「何でこの金額なの?」と税務調査で聞かれたときに困りますよね。
逆に、買手負担のままであれば、売手のインボイスには振込手数料は登場しません。
なぜなら、手数料は買手と銀行の間の取引で完結しているからです。
買手側が振込手数料を負担する場合のポイント
改めて整理すると、買手が振込手数料を負担する場合、この手数料は課税取引です。
買手は金融機関から課税仕入れをしていることになります。
したがって、売り手側は特に気にする必要はありません。
売手側が振込手数料を負担した場合のインボイス記載方法
問題は、売手側が振込手数料を負担した場合です。
このときは、売手が本来受け取る代金から手数料分を差し引いていることになります。
つまり、値引きをした状態ですね。
原則としてインボイス制度では、値引きがある場合、適格請求書にちゃんと値引き額を記載して、最終的な課税標準額を明示する必要があります。
たとえば、本来100,000円受け取るはずだったのに、手数料500円を負担するなら、実質的には99,500円しか受け取っていないことになります。
適格請求書には、「商品代金100,000円、値引き500円、差引99,500円」と書いて、消費税も99,500円に対して計算するわけです。
こうすれば、取引の流れがはっきりわかりますし、消費税も正しく計算できますよね。
このように値引きと明記しなければならないことになっています。
しっかり値引きとして記載することで、インボイス制度が求める透明性と正確性を確保できます。
少額な返還インボイス交付義務免除が使える
ただ、上記の方法はあまり現実的ではないですよね?
そこで、インボイス制度では、商品を売った後に返品や値引き、割戻しなどで返金することがあった場合、消費税を含めて1万円未満といった少額の場合には、この返還インボイスを発行しなくてもよい(発行義務が免除される)ことになっています。
たとえば、売り手が振込手数料を負担したとき、その分を売上の値引きとして処理するとします。
この場合、振込手数料分の値引き金額は、多くのケースで1万円未満でしょう。
そのため、この値引きに関して「返還インボイス」を発行する必要はなくなり、手続きが簡単になります。
まとめ
インボイス制度では、課税取引ごとに適格請求書(インボイス)が求められるため、振込手数料の扱いに戸惑うこともあるかもしれません。
基本的には、振込手数料は課税取引ですが、誰が負担するかによってインボイス対応が変わってきます。
買手が負担する場合は、買手と銀行の間の課税仕入れとなるため、インボイスが入手できないと仕入税額控除が難しい場合があることを頭に入れておきましょう。
一方、売手が負担すると値引き扱いになり、適格請求書に値引き額を明記して消費税計算を調整します。
また、少額の返還であれば、返還インボイスの交付義務が免除されるケースもあるため、手続きが簡素化されることがあります。