1. 借手側の会計処理の全体の流れ

新リース会計基準では、借手側(ユーザー)の会計処理において大きな変更が行われました。
これまでのルールでは、オペレーティング・リースの場合にオフバランス処理が認められていましたが、今後はファイナンス・リースやオペレーティング・リースにかかわらず「使用権資産」と「リース負債」を計上することが求められます。

まず、契約締結時点で「この契約はリースか、サービスか」などを明確に区分し、もしリースであれば使用権資産としてオンバランスするという流れです。
また、リース期間の決定や契約時に適用できるオプションなどを考慮し、リース料の現在価値を算定して、リース負債を貸借対照表に計上します。
「一気に変わるのは大変そう…」と思う方も多いですよね。
しかし、経過措置や簡便的な取扱いが用意されているため、順序立てて対応すればスムーズに進められますよ。

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2. リースの識別:どんな契約がリースにあたるの?

新リース会計基準では、契約締結時に、「リースを含むか否か」を判断します。

リースの識別に関するフローチャート
リースを含むかどうかの判断 契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する。
契約は、(1)資産が特定され、かつ、(2)特定された資産の使用を支配する権利を移転する場合にリースを含む(第 5 項参照)。
(1)資産が特定されているかどうかの判断
資産は、通常は契約に明記されることにより特定される。
ただし、資産が契約に明記されている場合であっても、サプライヤーが、①使用期間全体を通じて当該資産を代替する実質上の能力を有し(第 6 項(1)参照)、かつ、②資産の代替により経済的利益を享受する場合(第6項(2)参照)、サプライヤーは資産を代替する実質的な権利を有しており、当該資産は特定された資産に該当しない。
(2)資産の使用を支配する権利が移転しているかどうかの判断
顧客が、特定された資産の使用期間全体を通じて、①資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し(第 5 項(1)参照)、かつ、②資産の使用を指図する権利を有する場合(第 5 項(2)参照)、資産の使用を支配する権利が移転する。
顧客は、次のいずれかの場合に、使用期間全体を通じて特定された②資産の使用を指図する権利を有している。
(ア) 顧客が使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している(第 8 項(1)参照)。
(イ) 使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされている場合に、(i)顧客のみが資産の稼働に関する権利を有しているか、又は、(ii)資産の設計を行っている(第 8 項(2)参照)。

具体的には、「契約に定められた資産を使用する権利」が借手に移転しているかどうかをチェックし、【基準25項・26項】で定められた要件を満たすなら、その契約はリースとみなされます。

1.リースの識別
(1)リースの識別の判断
25. 契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する。
26. 前項の判断にあたり、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む。

例えば「一般的な設備のリース契約」の場合、リース物件が特定されており、使用方法をユーザー(借手)が決定できるため、ほとんどの場合はリースと識別されます。
また、リースを構成する部分とサービスを構成する部分が混在している場合は、「リース部分」と「サービス部分」を分ける必要がありますが、一般的な機械や設備のリースでは、サービス部分がないケースが多いです。
これまでオペレーティング・リースとして処理していたものも、「リース」の定義を厳密に当てはめるとオンバランスになる可能性があるので注意が必要ですよね。

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3. リース期間の決定:オプションを考慮する

リース期間は、「解約不能期間」に加えて、借手が行使することが合理的に確実な延長オプション期間や、借手が行使しないことが合理的に確実な解約オプション期間を含めることで決定します。
【基準31項】に示されている通り、リース期間が長くなればリース負債の金額も大きくなりますので、正確な判断が重要です。

(1)借手のリース期間
31. 借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の(1)及び(2)の両方の期間を加えて決定する(適用指針[設例 8-1]から[設例8-5])。
(1) 借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
(2) 借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮する。貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含まれる。

<具体例>
例えば、契約上のリース期間が5年で「解約不能期間」は3年だけだけれど、残り2年は延長オプションが設定されているとします。
もし「その延長オプションを行使する可能性が非常に高い」と判断されれば、リース期間は5年と考えることになります。
逆に、再リースという形で追加契約を検討する場合でも、リース開始日に再リースすることが合理的に確実でなければ「独立したリース」として扱われるため、延長オプション期間には含めなくてよいこともあるのです。

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4. 使用権資産・リース負債の計上:リース開始日にオンバランス

リースの契約内容が決まったら、リース開始日にリース料総額を現在価値に割り引いて「使用権資産」と「リース負債」を計上します。
【基準33項】に基づき、借手が支払うリース料の合計を、割引率(貸手の計算利子率や借手の追加借入利子率など)で現在価値にして算出します。

3.借手のリース
(1)リース開始日の使用権資産及びリース負債の計上額
33. 借手は、リース開始日に、第 34 項に従い算定された額によりリース負債を計上する。また、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上する。

<具体例>
– リース料総額が6,000千円
– リース期間が4年
– 割引率を年8%と仮定
この場合、4年間で支払う総額6,000千円を現在価値に割り引き、例えば4,500千円と算定されたなら、それをリース負債として計上し、同額を使用権資産として貸借対照表に載せます。

従来のオペレーティング・リースだと支払う都度費用処理で済んでいましたが、今後はこのように資産・負債をオンバランス化する点が大きく異なりますよね。

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5. 利息相当額の配分と使用権資産の償却

使用権資産とリース負債を計上した後は、リース期間中に利息相当額や減価償却費を費用として認識します。
基本的に、利息は「利息法」によって各期に配分しますが、重要性が乏しい場合の「簡便的な取扱い」も認められています。

また、使用権資産の減価償却費は、ファイナンス・リースと同様に「リース期間」を耐用年数として定額法などで償却するのが原則です。
ただし、契約上の諸条件から原資産の所有権が借手に移転すると認められる場合は、普通の減価償却資産と同じように耐用年数を設定します。
「支払うリース料だけでOK」というこれまでの賃貸借処理と比べると、少し手間ですよね。
しかし、国際基準に合わせた形となり、より実態を表す会計処理と言えます。

6. 経過措置で導入のハードルを下げる

新リース会計基準の導入には「経過措置」が用意されているため、今までの契約をすべて一気に見直す負担を少し軽減できます。
たとえば、ファイナンス・リース取引(FL)と分類していたものは、適用初年度の前期末日のリース資産とリース債務の帳簿価額をそのまま使用権資産・リース負債に引き継げます。
その他にも、短期リースや少額リースの扱いも含め、細かいルールがあるので早めに確認しましょう。

<具体例>
ある会社がファイナンス・リース(FL)でオンバランスしていた10件のリース契約を抱えている場合、経過措置を使うと、初年度の期首にその資産・負債を「使用権資産・リース負債」として移行できます。
これにより、再計算の手間を大幅に省略できる仕組みですね。

まとめ

借手側の新リース会計基準では、オペレーティング・リースを含め、全てのリースをオンバランス化することが大きな特徴です。
リースの識別やリース期間の決定、使用権資産・リース負債の計上といったステップを踏み、従来の賃貸借処理とは異なる方法で財務諸表を作成することになります。
最初は大変かもしれませんが、徐々に慣れていきましょう!