現状回復義務のある土地や賃貸ビルに対して、資産除去債務、というものを計上しなければならない、と聞いたことがあるでしょうか?

聞いたことあるけど、なんだよそれ?って声も聞こえてきそうです。

事実、管理人もやっぱり最初はさっぱりわかりませんでした。

ネットで検索しても、小難しい会計用語を並べるだけで、初心者にわからせる気ゼロの説明ばかりです。

そんなわけで今回は、資産除去債務について、初心者にもできるだけわかりやすくご説明いたします。

資産除去債務がそもそも何なのか?
どういう風に計算するのか?
どんな仕訳を切るのか?
そして、税務上の処理や税効果についてもご説明します!

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資産除去債務って何?

資産除去債務とは、貸事務所や店舗から将来退去するときの原状回復にいくらかかるかを見積もって計上しておくものです。
つまり、将来支払いが見込まれる未払金のようなものです。

計算は後で詳しくご説明しますが、毎期、利息費用や減価償却費という費用を計上していきます。

原状回復費用の見積もり→資産除去債務の計算→利息費用と減価償却費の計算→退去時に資産除去債務取り崩し、という流れです。

有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/資産除去債務

例えば、土地を借りて、その土地に工場を建てたとしましょう。
で、その土地の契約書に原状回復義務の条項があった場合は、資産除去債務を計上しなければなりません。

他に多いのが、貸事務所を改装して使っている場合。
管理人の会社もご多分に漏れず、都内の某ビルのフロアを借りて、パーテーション(建物附属設備)で区切ったりして使っています。

当然、原状回復義務がありますので、ビルのフロアを原状に戻す費用を資産除去債務として計上しています。
会計基準でいうと、これが有形固定資産の除去に当たります。

原状回復費用については、原状回復費用削減サービスというものがありますので、併せてご参照ください。

次は実際の計算方法を見ていきましょう!

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資産除去債務の計算方法

では、具体的な計算はどうやるのでしょうか?
管理人のやり方をご紹介いたします。

原状回復費用の見積もりをとる

これは、原状回復を依頼する業者に見積もりを出してもらいます。

貸ビルであれば、そのビルを所有している不動産会社に依頼すれば見積もりを出してもらえます。

この見積り金額が、退去時の最終的な資産除去債務の金額になります。

原状回復費用を現在価値に割り引く

またも聞き慣れない言葉が出てきました。
現在価値に割り引くって…。
割引計算というこの計算、たまに出てきます。

なぜそんなことをするのかというと、見積りはあくまで原状回復する時点のものと考えます。
つまり、何年か先の話なのです。

例えば、10年後に事務所を今の貸ビルから移転すると決まっていた場合、見積りは10年後の金額です。
では、10年後の100万円は今でいういくらでしょうか?

分かりやすく利率が1%で、利息が年間1万円だとすると、10年後の100万円は今でいう約90万円だと言えます。
なぜなら、90万円に1%の利息がついて1年後には91万円、2年後には92万円、3年後には93万円…と繰り返していくと10年後には100万円になりますよね?

これが割引計算です。

というわけで、10年後に退去予定で、見積りが100万円、利率が1%の場合、資産除去債務は90万円ということになります。

これに毎年1万円ずつ利息費用という費用を計上して、資産除去債務も増やしていきます。

利率は、財務省の国債金利推移を使うといいでしょう。

csvファイルで国債金利情報が取得できますので、除却見込み年数に対応した国債の金利で割引計算してください。
また、金利は毎日動いています。
対象の有形固定資産の取得日を使うか、取得月の月末や月初を使うかは顧問会計士にご相談ください。

これは財務省の国債金利推移のサンプルです。

割引計算期間が見積もれない場合は元資産の耐用年数を使える?

期間を見積もる、といっても、実際は今の事務所を退去するのはいつになるかわからない、借りている土地をいつ返すかわからない、というのがほとんどだと思います。

その場合、管理人が会計士の先生に聞いたところ、主要な固定資産の耐用年数を使う、というのが妥当なんだそうです。

工場を建てていたら、建物の耐用年数、貸ビルにパーテーションを組んでいたら、建物附属設備の耐用年数を使います。

とはいえ、管理人の事例なので、詳細は顧問会計士にご相談いただくのがよいです。

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耐用年数にもとづいて減価償却費を計算する

利息費用が決まったら、次は減価償却費です。

減価償却はもとの有形固定資産と全く同じです。

事務所のパーテーションの例だと、原状回復で処分する建物附属設備が、定額法、耐用年数15年だった場合、それと同じになります。

減価償却は会計システムで管理している場合は、自動計算してくれるので、その計算結果で差し支えありません。

これで、資産除去債務債務を計算する準備ができましたので、実際に仕訳をしていきましょう。

資産除去債務の仕訳を順を追って説明します

資産除去債務はどんな仕訳になるのでしょうか?
これは決まりきっているので、覚えるだけです。

最初の仕訳

有形固定資産/資産除去債務

この有形固定資産は、原状回復の時に除却する予定のものと同じ科目、同じ減価償却方法です。
例えば、パーテーションなら建物附属設備、定額法、耐用年数15年といった具合です。

実務上は、「パーテーション(資産除去債務対応分)」などのように、資産の名前を分けておくと分かりやすいです。
後で説明しますが、法人税計算では、この有形固定資産の減価償却費は損金不算入なので、分けておかないと大変なことになります。

決算時の仕訳(会社によっては月次でやるときもある)

減価償却費/減価償却累計額
利息費用/資産除去債務

決算や月次で、最初に資産除去債務に対応した固定資産を通常の固定資産と同じように減価償却をします。

また、資産除去債務は利息費用というものを計算します。
利息費用は、資産除去債務の金額と原状回復にかかる金額の差額を埋めていくために使います。
計算方法のところでご説明した、割引計算の逆で割り引いた分を戻していく(資産除去債務を増やしていく)というイメージですね。

資産除去債務の対象になった資産を除却するときの仕訳

固定資産除却損/有形固定資産
減価償却累計額

資産除去債務/現預金
履行差額

ここで、履行差額という見慣れない勘定科目が出てきました。
これは、資産除去債務特有の勘定科目なので、是非覚えて下さい。

履行差額というのは、文字通り、原状回復を履行したときの実際の金額と資産除去債務の差額です。

資産除去債務はあくまで見積もり金額なので、実際に原状回復にかかった金額と必ず差が出ます。
これが履行差額として計上されます。

法人税の計算はどうなるか?

法人税には、資産除去債務という考え方はありません。
ですから、利息費用と資産除去債務に対応して新しく計上した有形固定資産の減価償却費は、損金不算入です。

では、いつ損金算入(認容)されるかというと、除却した時です。

法人税計算の基本はこの記事を参考にしてください。

税効果の計算はどうなるか?

法人税で損金不算入が出るということは、税効果を考えなくてはなりません。

税効果とは何だ?という方はこの記事を参考にしてください。

資産除去債務、利息費用、減価償却費の金額は分かりやすいように、あえて切りのいい数字にしています。
実効税率は30%としましょう。

仕訳で表すとこういう風になります。

何となくでいいので、見てみて下さい。

当初の税効果の仕訳

有形固定資産100/資産除去債務100
繰延税金資産30/法人税等調整額30
法人税等調整30/繰延税金負債30

次年度以降の税効果の仕訳

利息費用10/資産除去債務10
繰延税金資産3/法人税等調整額3

減価償却費10/減価償却累計額10
繰延税金負債3/法人税等調整額3

実務上税効果を計算する時は、こんな風に個別にやらないで計算シートを使うことが多いと思われます。

というか、いちいちこんな面倒なことやっていられませんよね?

計算シートは一時差異項目を並べて、スケジューリング計算をするので、

  • 資産除去債務の残高×実効税率
  • 資産除去債務対応分有形固定資産の簿価×実効税率(マイナス)

という項目を設けるとやりやすいです。

1年目は、資産除去債務と対応する固定資産が両方とも100万円とします。
固定資産の方は、繰延税金負債なのでマイナスで表します。

上の表が一時差異の金額。
下の表が税効果、繰延税金資産、繰延税金負債の金額です。

2年目です。
資産除去債務が利息費用の分だけ増えています。
固定資産の方は、帳簿価額が減っているので、100万円から80万円になっています。
繰延税金負債が去年は6万円×5年で30万円。
今年度は6万円×4年で24万円となっているのがおわかりでしょうか。

繰延税金負債が減っている。
つまりこれが、
繰延税金負債/法人税等調整額
の仕訳をしたのと同じなのです。

まとめ

資産除去債務は、借り物の原状回復に関わる費用をあらかじめ計上しておくものです。

割引計算や利息費用の計上、法人税の調整、税効果と、影響が幅広いので、少しずつ理解していって下さい。

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